編集部に届いた一通の手紙と宝くじ当せん金支払い証明書。そこに記されていたのは、当せん金額100,000,000円の文字。ずらりと並んだ「0」に驚きつつも、手紙を読むと、そこには想像を超えた波瀾万丈の人生がつづられていた。いったい当せん者に何があったのか。緊急事態宣言下のため、電話でさっそく取材を敢行した。
サマージャンボ1等前後賞1億円当せん者「人生が逆転した瞬間」
相次ぐ家族の不幸の末、残された所持金は5万円に……
MARKさん(仮名)栃木県・45才
「お金に困っていたんですよ、とても」
取材が始まるやいなや、MARKさん(仮名・45才)が語りだす。
手紙の書き出しにもつづられていた困窮していたという言葉。当せん総額1億円、共同購入としても6000万円を手にした喜びよりも先に、何度も訴えかけるほど、それはMARKさんの心に黒い影を落としていたようだ。
踏み込みづらい話題ではあったが、さっそくその理由を聞いてみると。
「立て続けに不幸が続いたんですね」
ご両親、そしてお兄さんを数年のうちに亡くしてしまったのだという。さらに詳しく聞いてみると、想像以上に苦難の人生を歩んできたことがわかった。
「私、東京の大学を中退後、就職して25才まで働いていたんですよ」
そこまではごく普通のありふれた話だ。当時、就職氷河期だったことを考えると、就職して働くこと自体、うらやましがられる状況だったのかもしれない。しかし、平穏な生活は一変。最初の苦難が訪れる。職場の人間関係の問題だ。
「どうしても馴染めない環境に疲れてしまって。それでもがむしゃらに働いていたんですが、ふと気づいたときには精神を病んでしまっていたんです」
半年間の入院の末、1カ月に1回は通院する日々。以前とは様変わりした状況にすっかり自信を失ってしまったMARKさん。その後の3年間は人を避けるように自宅で暮らしていた。
「でもこのままじゃダメだと思って、同じ悩みを持つ仲間が集まるNPOの自助グループに参加しました」
一歩踏み出してみれば、共通の趣味を持つ仲間と苦しい胸の内を分かち合い、だんだんと活動を楽しめるようになったのだという。
家に一人でいるとどうしても自問自答してしまい、自分で自分を追い詰めてしまうことも。自助グループでの語り合いは、MARKさんにとってそっと心の声を表に出せる場所だったそうだ。
「当時は父も母も元気でしたから、自分のことだけ心配すればいいこともあって、精神的にも大分落ち着きました」
およそ10年、自助グループに通い、社会復帰への足掛かりを探してきた。そんなとき。
「家の近所に売り場ができたんですよ、宝くじの」
体調の心配から遠出できないMARKさんにとって朗報と言える出来事だった。
「ロト6を家族の誕生日数字で買いました。そうしたら4等に当たったんです」
すっかり宝くじの魅力にハマったMARKさんは、それ以来、ロト6や7を中心に狙った数字を継続で買い続けてきた。MARKさんのささやかな楽しみだ。一方、いまだ社会復帰はできずにいた2011年に母親が、そして2012年に父親が相次いで亡くなってしまう。
「急に心細くなりましたね、やっぱり不安で。でも私、男ばかりの3人兄弟の末っ子だったので、兄二人と力を合わせてなんとかやっていたんですが……」
2015年、今度は一つ上のお兄さんが亡くなってしまう。
「前触れもなく突然で。私と長兄の二人になってしまいました」
残されたMARKさんは家のことを、お兄さんは働きながら兄弟二人きりの生活が始まった。
「それでも両親や兄の保険金がありましたから、これまでなんとかやってこれました」
しかし、そんな生活も長くは続かなかった。お金が底を突き始めたのは、2018年のこと。
父ゆずりの開運法で崖っぷちからの逆転劇!
「情けない話ですが、『もう生きてはいけないのかな』と半ば諦めていたんです」
聞いているこちらまで心が苦しくなってくるようなつらい出来事に何度も見舞われるMARKさん。そんなある日、MARKさんは不思議な夢を見た。自宅の縁の下にとぐろを巻いた白い蛇。その蛇が「助けてやるから待ってろ!」と告げるという夢だ。
「今思えば、その蛇の声は父に似ていました」
翌朝は奇しくも大安。手元のお金は全部で5万円。
「もうどうにでもなれという気持ちでジャンボ宝くじにかけてみることにしたんです」
サマージャンボ宝くじのバラ100枚、計3万円分を買ったというから、まさに一世一代の大勝負だ。
「当たる、大きく当たるって思うことが大切なんです」
買っただけで手をこまぬいているだけでは当たらないことがわかっていたMARKさん。普段から行っていたトイレ掃除や玄関の掃除は念入りに。それ以外にも金運アップに効果があるとされる風水はありとあらゆることを取り入れたそうだ。
さらに金運に効果のある黄色の財布とタイガーアイのブレスレットは欠かさず身に着けるといった徹底ぶり。話を聞いていると、ことさら開運に関して詳しいように感じられる。かなり勉強されたのだろうか。
「私の父が縁起物を扱う仕事をしていたので、風水や運気アップに関することはよく知っていたんです」
さらに話は続く。
「我が家は父の影響で風水に基づいた作りをしていたので、南向きに置かれた神棚にはよくお祈りしていました」
もちろん家族の命日には墓参りに行き、日々の感謝を伝えた。
「兄弟二人になってから猫を飼い始めたので、もしかしたらうちの猫が招き猫だった可能性もありますね(笑)」
そんな冗談を交えながら、当たるための努力は惜しまなかったと話す。そうして待ちに待った抽せんの日の翌日。朝いちばんに近所の売り場へ向かったMARKさん。袋のまま販売員さんへ手渡して確認してもらう。
「私、ジャンボを買ったときは最後の最後まで開けないで保管してるんですよ。封を切っちゃうと、中に溜まっている運気が逃げちゃう気がして」
これもMARKさんの縁起担ぎのひとつだ。この言葉の通り、運は逃げなかったようだ。くじ券を通したチェッカー(当せん番号自動照合機)が光り、「ブー、ブー」と鳴り出したのだ。
「後で知ったのですが、この機械音は高額当せんのときに鳴るらしいですね。売り場のお姉さんが小声で『1億円当たってますよ』と教えてくれたんです」
一世一代の大勝負、まさに人生の逆転劇が起こったのだ!
第754回全国自治宝くじサマージャンボ
1等前後賞1億円うち、共同購入6000万円当せん!!
音につられて売り場のまわりがざわざわとし出したため、努めて冷静にそそくさと車へ戻ったMARKさん。しかしここで張りつめていた糸が切れた。
「泣きながら兄に電話しました。『当たったよ』って」
追い詰められていた状況下からの安堵もあったのだろう。涙声で喜ぶMARKさんに、お兄さんは「焦らず事故らないように慎重に帰ってこい」と優しく声をかけてくれたそうだ。
後日、豪華な応接室に通され、1億円の実物を確認。
「興奮しましたよ。こんな経験、二度とないですから」
電話越しの声も思わずトーンが上がる。当たった当せん金はお兄さんと分けた。
「働けない私に代わって、お世話になっている兄が4000万円を。残りは私が」
手元には6000万円。 車を買い替えたり、服に使ったりしたものの、残りは日々の生活費として大切に使っているそうだ。
これぞ奇跡の逆転ホームランの当たりとなったMARKさんだが、この大勝利の一番のポイントは何だったのか。改めて聞いてみると。
「運の強さじゃないでしょうか。もちろん、もともと持っているものもあると思うんですけど、そこからいかに正しい行いをして運を強くしていくかが大切だと思うんです」
運は育てるもの。そうMARKさんは話す。
「もちろん宝くじに関していえば、野球じゃないですけど、ホームランを打つには素振りを何度もするように、買わないと当たらないのは大前提ですね」
そのうえで、「当たる」行動をとるのが重要だそうだ。
「そういえば、当たってから気づいたことがもうひとつありました」
おもむろに話し始めるMARKさん。お兄さんと二人になってから、毎年、栃木県の大前恵比寿神社にお参りにいくようになったそう。台座も含めると、全高20メートルもあるえびす像がある大前恵比寿神社は知る人ぞ知る宝くじ高額当せんにご利益のある神社。実際に数多くの当たりを報告する絵馬が飾られ、恵比寿様の縁起のひとつには3年続けてお参りすると願いが叶うと言われているそうだ。
「すぐ上の兄が亡くなった2015年からお参りを始めて、ジャンボに当たったのが2018年なので、ちょうど3年ぴったりだったんですよね」
3年続けてお参りしたら願いが叶ったことを本当に体験したという訳だ。この不思議な符合に、お父様に似た声の白蛇の夢……。ここまで来ると、当たるべくして当たった気がしてくる。
「そう考えると、面白いですよね」
運気アップにいいと思ったことは取り入れるMARKさんの素直さとお兄さんとの二人三脚でつかんだ今回の当せん。まだまだ病との闘いは続くが、今後も兄弟二人で宝くじを楽しみながら今度こそ穏やかな日々を過ごしてほしいと願うばかりである。
※この記事は『ロト・ナンバーズ「超」的中法2021年5月号』の[夢の高額当せん者インタビュー]を一部抜粋変更したものです