編集部に1通の封書が届いた。なかにはロト6で2等1167万円が当せんしたという証明書が。さっそく送り主にアポを取り、兵庫県へと向かった。そこに待っていたのは、壮絶な体験をしてきた当せん者だった。
クレーン操作のさなか車が倒れて自分も落下。その後の記憶は一切なし
「不幸なのか幸運なのかわかりませんよ」
そう笑って話し始めたのは、今回の主人公・あきさん(仮名・55才)。その理由のひとつは仕事中に起こった事故。
「2011年、46才のときのことです。クレーン車の操作をしとったんです」
早朝の現場。廃車をクレーン車で移動させる仕事。作業員はあきさんひとりだった。
「車の運転席の屋根の上にクレーンの操縦席があるやつで、そこで作業をしてました」
クレーン車が重いものを釣り上げたときにバランスを崩さないようにアウトリガーといって、クレーン車の左右に地面と車とを固定する装置でしっかりとバランスを取っていたが……。
「急にアウトリガーの油圧がおかしなって、グワッとクレーン車が傾いたんです。あっ!と思ったときには、体が操縦席から浮いていました……」
シートベルトをゆるめにしていたため、一気に体を持っていかれてしまった。さらに不運は続く。
「アウトリガーに頭から落ちたんですわ。その瞬間から記憶がないんです」
あきさんただひとりという早朝の現場。命に係わる事故が発生したのに救急車が呼べない。まさに絶体絶命の窮地に陥った……。
「あとで聞いたんですが、私の現場からの連絡が会社にないので、おかしいと思って夕方ごろに会社の同僚が現場に見に来てくれたんですよ」
すでに事故から10時間以上経過していたという。
「脳挫傷だったみたいです」
そういうと、かぶっていた帽子を脱いで、いまも残る生々しい傷痕を見せてくれた。さらに、縫合がうまくいかなかったのか、挫傷した部分の頭蓋骨は明らかに歪んでいた。
「救急車で運ばれたあとは緊急手術だったみたいです。そのあと数日しても意識が戻らず、1週間目にようやく目が覚めました」
このとき、あきさんのご両親は、2週間以上も意識が戻らない場合は、最悪のケースを覚悟しなければいけないと医者から説明を受けていたのだという。
「目が覚めても、結局体は動かない、車イスでの生活ですわ」
ところがあきさん、ここから驚異の回復を見せる。
「ひと月で歩けるようになったんです。いまでも体の右側は痺れている箇所があったり、右手の握力なんかほとんどないんですよ(笑)」
体に障害が残ってしまったことで、障害年金を受け取りながらの生活が始まった。大きな不幸に遭ってしまったあきさんだが……。
結婚9年目にして離婚、子ども3人をひとりで育てることに
「その前もかなりひどいもんでしたよ……」
そう切り出してきた。
「私、29才のときに結婚したんです」
すぐに子どもも生まれ、まさに順風満帆。
「結婚4年目くらいのころです。……違和感っていうんでしょうかね。妻がおかしいなーと思い始めたんです」
それは「お金」に関することだった。
「子どもも生まれて頑張らないといけないですから、当時は長距離ドライバーをしていたんです」
月によって変動はあるものの、いいときは月に手取りで65万円もの収入があった。
「子どもには大学まで行かせてあげたいと思ってましたから。寝る間も惜しんで働いてましたよ」
ところが、給料が振り込まれた翌日に口座の残高が1万円だったことがあった。
「生活費は妻に任せていたので、きっと一度引き出してやりくりをしているのだろうと思っていたんです」
重ねてあきさんは長距離ドライバーなので2、3日家を空けることが多かった。
「おかしいなー、と思っていましたが、決定的な証拠がなかったので、しばらく様子を見ていました」
そして、「お金」がなくなる理由がわかった。
「お金の使い道がわからないところがすごく多くなったんです。それを妻に問い詰めたんです」
あろうことか、あきさんが稼いできた給料の大半は、奥さんの両親へと仕送りされていた。
「妻の両親が、事業で失敗した兄弟の借金を背負っていたんです。自己破産でもすればいいものを、そういう術を知らなかったんでしょうね……」
なんと奥さんの両親は、自分の借金返済のため、娘であるあきさんの奥さんをはじめ、自分の子どもから「お金」を徴収していた。
「妻には兄がいたんですが、その兄も毎月両親にお金を仕送りしていたらしいんですが、どこかで嫌気がさしたんでしょうね。蒸発しちゃいましたよ。いまどこにいるのか、生きているのかすらわからないですよ……」
兄からの送金がなくなったことで、しわ寄せがあきさんの奥さんに来たのかもしれない。
「おかしな話ですよ。うちの生活がままならないくらい仕送りするって……」
聞けば、こんなことも。
「500円玉貯金ってあるじゃないですか。家族5人でディズニーランドに行こうと思って30万円目標に貯めていたんですよ」
数年かけて、だいぶたまった500円玉貯金箱のお金の投入口にふと目がいったあきさん。
「お金を入れるところって、平行になっているじゃないですか。あそこがなぜか微妙に上下に開いていたんです」
不思議に思ったあきさんは、確認のため貯金箱を持ち上げた。
「ちゃんと重かったんです。でも、気になったので、その上下に開いたところから中に入っているお金を出してみたんですよ」
スルッと1枚のコインが飛び出してきた。ただそれは500円玉ではなかった……。ゲームセンターにあるようなコインだったという……。
「あれ?って思って全部出したんです」
すべてゲームセンターのコインだった……。
「愕然とするっていうのは、こういうことなんだろうな、なんて思いながら、すぐに妻の仕業だとわかりましたよ」
このままだと子どもの教育上もよくないと、離婚を切り出したあきさん。
「結構時間はかかりましたが、離婚することができました」
結婚してから9年目の出来事だった。このとき、3人の子ども(長女=小2、長男=5才、次女2才)がいたが、すべてあきさんが引き取ることに。男手ひとつでの子育てが始まった。掃除、洗濯、食事の用意……加えて仕事は重労働。生活は困難を極めた。そんなときだった。
不幸はさらに続く、長男の暴力を止めるためにしつけのつもりが……
「長男が、次女をよくいじめていたんですが、暴力をふるうことが多くなったんです」
これはいけないと思ったあきさん。しつけのためと思い、長男に人を殴るとこんなに痛いんだ、ということを伝えるため、長男を一発殴った。
「もちろん加減しましたよ。殴られると痛いだろ、これをお前は妹にしているんだぞ、っていうことをわかってほしくて……」
泣きじゃくる長男の頬は、みるみる腫れた。
「翌日、息子は頬に湿布をして学校に行ったんですが、担任にどうしたと聞かれて、私に殴られたことを話したそうです」
念のためと、担任はすぐに長男を病院へ。そこでレントゲンを撮ると……。
「顎に少しだけヒビが入っていたんです」
騒ぎが大きくなるのに時間はかからなかった。学校、PTA、そして児童相談所と話は一気に拡大。
「結局、私が育てることは難しいと児相から言われて、私も事情を話したのですが、まともに取り合ってもらえなかったので、『かまへんで!』って答えてしまったんです」
3人の子どもは、あきさんの両親に預けられた。
「私も疲れていたのかもしれません。今はもう長女は独立して、息子も家を出たと聞いています」
1167万円当せんの瞬間は「ビックリはしたけど……」
なんとも数奇な運命をたどってきたあきさんである。
話を戻し、事故から3年が経過した2014年、そう今回当せんした第863回ロト6。実は、宝くじ歴は、30年以上というあきさん。これまでジャンボ宝くじでの1等組違い賞が5回もあるという、稀な当せん経験も持っている。
第660回全国自治宝くじ(ドリームジャンボ宝くじ)1等88組119470番組違い賞10万円
「ロト6は、400回あたりから買い始めたと思います」
もともと統計や数字が好きだったあきさん。
「セット球のデータとかをよく見ます。狙うセット球、柱にする数字を決めて、数字を選ぶようにしていますね」
セット球とは、ロトの抽せんで使われる球のこと。この「01」から「43」の球を1セットとして、計10セット色違いのセットがある。これをセット球と呼ぶのだが、これはあるセットだけ使い続けると、出現する数字に片寄りが出る可能性があるため、違うセット球を使うことで公平性を保っている。逆にいえば、セット球ごとに出現傾向がある、ということでもある。そこに目を付けた攻略法だ。(セット球の詳細はコチラから)
「当たった第863回は、『04 14 18 26 35 36(02)』だったんですが、当初は「04」も候補だったんです。でも、ゲンが悪い数字なので、「04」ではなく「02」を軸にしたんですが、それが裏目に出ちゃいましたねー」
ちなみに当たりは翌日に携帯でチェック。
「ちょっと待ってよ、って感じで、すぐに2等ってわかったんです。あー、ビックリした~っていう感じでした」
第863回ロト6「04 14 18 26 35 36(02)」
2等1167万7900円当せん!
落ち着いて高額当せんを受け入れた。障害年金だけで細々と生活していたあきさんにとって、大きな助けとなる当せんだったことは言うまでもない。
「不幸が多いから、大きな当たりがいつかくるって信じてましたから(笑)」
壮絶な人生を歩んできたあきさんだからこそ、言える一言である。ちなみに事故から8年が経過した55才の現在、知り合いのところでアルバイトをして生活をしているあきさん。今後の目標を聞いてみると。
「2億円は当てたい!これだけあれば一生暮らしていけるでしょ(笑)」
目標や願いは口に出すこと、言霊を大事にしているあきさん。数奇な運命をたどるあきさんの宝くじライフはまだまだ続きそうである。
毎回買ったロト6の券はコピーしてファイリング。何をどうするべきだったのかという感想を書き添えている!
セット球ごとに各数字の出現を書き出している。こうした地道な努力のうえに、大きな当せんは訪れるのかもしれない!
※この記事は『ロト・ナンバーズ「超」的中法2019年12月号』の[夢の高額当せん者インタビュー]を一部抜粋変更したものです